ルーターハック Advent Calendar を振り返る

f:id:puhitaku:20181226001750j:plain

今回 ルーターハック Advent Calendar を一人で書いていたのだが、未達となってしまい盛大にやらかしたので、25日の今日、反省記事を投稿して総括とする。「1人 Advent Calendar はマジで大変、ノリでやるものではない」という気持ちが伝われば本望である。

なおこの記事で一旦締めくくりではあるものの、「書けないなら埋めようか?」と話しかけていただいた心優しい方々の投稿がある。感謝を込めてこちらの記事末で紹介させていただこうと思う。

adventar.org

ことの始まり

ルーターハック Advent Calendar をやると公表したのは、もう1ヶ月以上前になる11月24日だった。

この時は酒を飲んでいたので、「埋めたったれオラァ!」と完全に勢いで全部埋めた記憶がある。

次の日シラフに戻り、これは準備せなあかんと奮い立って記事を書くことにした。この時、せめて1日間隔ぐらいに緩和しておけばよかったのだが後の祭りである。

良かった点・努力した点

バッファを確保した

12月1日を迎えるまでに、5〜6記事程度のバッファを設けることに成功した。こんなに前もって何かができることは今までの人生レベルでもそうないのだが、流石に25記事も投稿しなければならないと思うと手を動かすことができた。

3日目の翻訳記事も、大変な分量で2日ほどかかったのだが、事前に仕上げることができた。

事前に計画した

Google Keepに25日間何を書くかについて計画を書き、遅れが発生するまではほぼ実行できた。書いてみたら重すぎた文章についてはスキップしたが。

少なくとも、怠けることはなかった

体力や予定で無理そうな時以外は机に向かい作業をしていた。毎日、帰って何をやろうか考え、実行した。

悪かった点・予想外だった点

予想以上に忙しかった

バッファを設けたのはよかったが、12月頭からこの数日前ぐらいまでは仕事が忙しくなったこともあり、あっという間に食いつぶしてしまった。事前に予想できたはずなのだが、読みが甘かった。

体調には波がある

記事を書くのは体力が要る。仕事に必要な分の体力や睡眠時間を確保したとすると、残りの量は日によって変化することになる。これが少ない時は、帰ってくるともうばたんきゅーである。

進捗は手を動かした量に比例しない

手を動かせば順当に進捗が得られるとは限らない。冷静に考えるとえらくまっとうなのだが、これを事前に思い出すことができなかった。1記事相当の進捗に達するのに3日ほどかかるのもザラだった。一記事あたりの分量を薄めれば記事は増やせるが、クオリティを下げるのだけは嫌だった。

これらを踏まえて

来年もルーターハック Advent Calendar はやると思うが、反省を踏まえて以下のように実施したいと思う。

  • もっと早めにカレンダーを作り、告知する
    • できる限り事前に枠を埋めてもらう
  • 自分で埋められる量をちゃんと考える
  • 無理そうになってきたら、素直に枠を空ける

記事投稿を名乗り出てくださった方々

25日も近くなり、「記事を投稿しようか?」とリプライをいただくことがあった。敬意を表し、助け舟を出していただいた方々の記事をこちらに掲載させていただく。

srchackさんの「LinkIt 7688のビルド手順。(Chaos Calmer 15.05.1)」 www.srchack.org

yamori813さんの「ZRouterの事」 qiita.com

『ルーターにつなぐ』I2C温度センサ編

本記事はルーターハックAdvent Calendar 13日目の記事です。12日枠の記事は srchack さんの「LinkIt 7688のビルド手順。(Chaos Calmer 15.05.1)」です。バリバリ遅れてるところに助け舟を出していただいてほんとありがとうございます。

www.srchack.org

今回は、さまざまなペリフェラルを実装しているルーターのために、元々なかったパーツをつないで遊んでしまおうという企画『ルーターにつなぐ』の第2弾だ。

おことわり

技適 に関する筆者の配慮や考えについてはカレンダー1日目「技適とルーターハック」をご覧ください。本記事で紹介する内容は、法を遵守するための慎重な注意をもって書かれています。

www.zopfco.de

I2C とは

アイスクエアドシーとか、アイツーシーとか読まれるシリアルバスの一種。クロックが低速(100kHz〜400kHzが普通)でこれを搭載しないマイコンはないというほどポピュラー。

I2C をしゃべることのできるセンサーを Raspberry Pi につないだことがあるという方も多いだろう。

バスなので1つの信号線に複数のデバイスが接続されるが、スレーブの区別は SPI とは異なっていて、データ線を流れる信号にスレーブアドレスも織り込まれる形式をとっている。これにより、データ (SDA) と クロック (SCL) の2本のみという非常に少ない信号線で通信ができるようになっている。

ルーターで I2C を使うには

今回は、やはり前回に引き続き 多摩電子工業 (Axing) W06 を題材に使うことにする。

ルーターで I2C を使うには、Device Tree の i2c ノードを有効化して Linux kernel に認識させることになる。

ファーム準備

ここから、

  • I2C 関連ツール用意
  • Device Tree の変更
  • I2C の信号が出ている回路を探す

の3つのステップを経て I2C を使えるようにする。

I2C 関連ツール用意

ファームの config に以下追加する。

まず、i2cdetect などが入っているi2c-tools。

  • Utilities -> i2c-tools

カーネルで I2C を扱えるようにするモジュール類。

  • Kernel Modules -> I2C support -> kmod-i2c-core
  • Kernel Modules -> I2C support -> kmod-i2c-mt7628

watch コマンドがあった方が便利だ。

  • Basy system -> busybox -> Process Utilities -> watch

Device Tree の変更

W06 の Device Tree は、 openwrt/target/linux/ramips/dts/W06.dts に入っている。この中で mt7628an.dtsi という SoC 共通の dtsi (include用の dts は拡張子として dtsi がつく) を include している。

mt7628an.dtsi は汎用なものなので、ルーターで使わない I2C のノードも記載されているものの標準で disabled になっている。include する側、つまり W06 の dts でこれを有効化する。

W06.dts を開き、I2C のノードを okay にするように以下追記する。

diff --git a/target/linux/ramips/dts/W06.dts b/target/linux/ramips/dts/W06.dts
index 8c3bbe4058..cd70ebbb2f 100644
--- a/target/linux/ramips/dts/W06.dts
+++ b/target/linux/ramips/dts/W06.dts
@@ -66,6 +66,10 @@
        };
 };

+&i2c {
+    status = "okay";
+};
+
 &spi0 {
        status = "okay";

I2C の信号が出ている回路を探す

探りを入れる前に、ひとまず i2cdetect してみよう。このコマンドを使うと、I2Cの各スレーブアドレスに対して応答を要請することができる(しくみは後述)。応答のあったアドレスはそのアドレス自体が表示され、応答がないと -- になる。

root@OpenWrt:~# i2cdetect -y 0
     0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  a  b  c  d  e  f
00:          -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
10: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
20: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
30: 30 31 32 33 34 35 36 37 -- -- -- -- -- -- -- --
40: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
50: 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 5a 5b 5c 5d 5e 5f
60: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
70: -- -- -- -- -- -- -- --

What? 何も繋がってないはずなのに亡霊がいる。オシロで探りを入れるしかないな。 watch -n 0.5 i2cdetect -y 0 でずっと信号が出るようにしよう。

Every 1s: i2cdetect -y 0                                                                                                                                                   2018-12-09 13:45:51

     0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  a  b  c  d  e  f
00:          -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
10: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
20: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
30: 30 31 32 33 34 35 36 37 -- -- -- -- -- -- -- -- 
40: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
50: 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 5a 5b 5c 5d 5e 5f 
60: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
70: -- -- -- -- -- -- -- --

データシート曰く、I2C は21ピンが SDA、20ピンが SCL らしい。近くに先日いじった SPI のピンも見える。

f:id:puhitaku:20181218005741p:plain

実際の写真はこれ。該当するピンと、その配線の先にあるチップ抵抗のランドをピンクで示した。

f:id:puhitaku:20181218005608p:plain

よく見ると…どちらのピンも、共通のランドにチップ抵抗で接続されている。もしや… I2Cのために最初からPull-upしてくれてるのか!!?*1

21ピンの SDA からのびた先のチップ抵抗に試しにプローブを当ててみる。

f:id:puhitaku:20181218004447j:plain

f:id:puhitaku:20181218004823p:plain
SDAぽい。

うんうん、それっぽい!

なんと、ご丁寧にも I2C の配線は最初からPull-upされていた。なんて親切なルーターなんだ(感激)

あっさり I2C の配線が特定できたが、本来出ない亡霊が i2cdetect で出てきているのが気になる。配線をこのランドから伸ばし、ロジアナに接続してみる。

信号をより詳細に計測する

ロジアナで詳しく調べる前に、I2C の probe のしくみを解説しよう。

I2C では、スレーブアドレス および レジスタアドレス を使ってアドレッシングする。

  • スレーブアドレス = バスに繋がれたデバイスを特定する値
  • レジスタアドレス = デバイス内のレジスタを特定する値

マスターが何らかの値を送るときには、まずスレーブアドレスを流し、そして書き込みたいレジスタアドレスを流し、最後に入れたいデータを流すことになる。これをビット単位で表したのが以下の図である。

f:id:puhitaku:20181222155653p:plain
出典: TI - Understanding the I2C Bus http://www.ti.com/lit/an/slva704/slva704.pdf

示されている各ビットは、以下のようなタイミングで表現され、伝送される。クロックとデータのエッジが重なる SPI などとは異なり、クロック (SCL) が High である時間をいわば前後に「包み込む」ようにしてデータ (SDA) のエッジが描かれるのが I2C の特徴である。

f:id:puhitaku:20181222160041p:plain
出典: 同上

ここで、上記2つの図で ACK と表現されているビットが、スレーブ側と正しくコミュニケーションできているかどうかを示す。このビットの区間だけは、マスターは SDA をコントロールしていない。つまり、スレーブ側が意図的に Low に落とせば「スレーブは指示を理解した」とマスター側に伝えられることになる。

よって、ACK に相当する区間が Low であれば ACK (OK)、High であれば NACK (NG) となる。

f:id:puhitaku:20181222161333p:plain
出典: 同上 ACKビットが High のため、スレーブに指示が伝わっていない = NACK となる。

それでは、本来居ないはずのアドレス 0x30 を実際に i2cdetect した時のスクリーンショットを見てみよう。Digilent - Analog Discovery 2 に接続し、Scope(オシロ) と Logic (ロジアナ)の両方で観察したのが以下のスクリーンショット。上が Scope、下が Logic。

f:id:puhitaku:20181222154844p:plain

まず、SDA が Low に落ちて START condition になる。次に、アドレス 0x30 を Read したいと伝える。さらにその次が件の ACK になるのだが、High のままになっているため NACK (NCK) を示している。

電気回路レベルでは特に問題がないのだが、やはり i2cdetect は 0x30 を検知したように表示している。

Every 1s: i2cdetect -y 0 0x30 0x30                                                                                                                                         2018-12-14 03:56:11

     0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  a  b  c  d  e  f
00:                                                 
10:                                                 
20:                                                 
30: 30                                              
40:                                                 
50:                                                 
60:                                                 
70:

回路構成はどうだろうか?リファレンスとなる LinkIt Smart 7688 の Schematic から I2C 部分を抜粋したのが以下の画像だ。

f:id:puhitaku:20181222163025p:plain
出典: LinkIt Smart 7688 Resources - Documentation https://docs.labs.mediatek.com/resource/linkit-smart-7688/en/documentation

Pull-up抵抗は 4.7 kΩ となっている。W06 の表面実装抵抗にテスターを当てたところ、やはり 4.7 kΩ を示したため、これも問題ないようだ。う〜んわかんなくなってきたぞw

ドライバにパッチを当てる

電気的に問題が無さそうなのに i2cdetect が false-positive を示すということは、SPI の時と同じく物理層以上ソフトウェア以下で問題がありそうである。早速 OpenWrt の Issue/PR を検索すると…

あった!

github.com

クロックの扱いや ACK のハンドリングがダメだったらしい。この PR で出ているパッチは Upstream (Mainline) に出すとだけ書かれて閉じられているが、Fork 先を git add remote からの fetch して cherry-pick すればよい。

パッチを当てると静かになった。行けそう。

root@OpenWrt:~# i2cdetect -y 0
     0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  a  b  c  d  e  f
00:          -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
10: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
20: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
30: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
40: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
50: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
60: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
70: -- -- -- -- -- -- -- --

温度センサを繋げてみる

I2C の亡霊問題は大丈夫っぽいので実際に何か繋ごう。今回は秋月で雑に買った 高精度温度センサ STTS751 を接続する。

akizukidenshi.com

ただ、あまりにも無計画に買ったのでDIP化基板を買い忘れてしまった。カプトンで固定して配線。そしてブレッドボードへ。

f:id:puhitaku:20181225221318j:plain
ルーペで撮った。

f:id:puhitaku:20181225223245p:plain
データシートより

左の点がある足から、反時計回りに1〜6ピンがのびる。4ピンはデータシート曰く may not float らしいがなくてもそれっぽく動くので今回はよしとした。

1ピンを Pull-up する抵抗の値によってアドレスが決まる。テストのため 10k + 10k = 20kΩ を接続したところ、データシートどおり 0x38 で認識された。

root@OpenWrt:~# i2cdetect -y 0
     0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  a  b  c  d  e  f
00:          -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
10: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
20: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
30: -- -- -- -- -- -- -- -- 38 -- -- -- -- -- -- -- 
40: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
50: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
60: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- 
70: -- -- -- -- -- -- -- --

計測してみる

温度レジスタの構成は以下のようになっている。0x00 の値を読むだけでも1℃単位の温度が得られるので、今回は簡易的に 0x00 の値だけ読むことにする。

f:id:puhitaku:20181225223408p:plain
データシートより

i2cdetect の兄弟に i2cget があるのでそれで読んでみる。

root@OpenWrt:~# i2cget -y 0 0x38 0
0x13

19℃。部屋にある別の温度計曰く19.6℃なので正しそうだ。指で温めると温度が上がり、離すと下がることも確認できた。

やったぜ!!!!!!!

次回

次回というか、Advent Calendarではない更新でこれからもこういったネタを投稿していけたらと思う。今回は以上!

*1:I2Cは上りも下りも単一の信号線で通信するため、ホストとスレーブどちらでも信号線を操作できるようにPull-upされている。このような、信号線上の誰かがLowを出力すると全体がLowになるような回路構成をワイヤードORという。

『ルーターにつなぐ』SPI液晶編

本記事はルーターハックAdvent Calendar 11日目の記事です。

さまざまなペリフェラルを実装しているルーターのために、元々なかったパーツをつないで遊んでしまおうという企画『ルーターにつなぐ』の第2弾。今回は、ルーターに小さな SPI 液晶をつないで遊ぶことにする。遊ぶといっても、配線からカーネルパッチから結構大変なのでやりごたえ抜群だ。

おことわり

技適 に関する筆者の配慮や考えについてはカレンダー1日目「技適とルーターハック」をご覧ください。本記事で紹介する内容は、法を遵守するための慎重な注意をもって書かれています。

www.zopfco.de

SPI とは

SPI とは Serial Peripheral Interface の略で、I2Cを開発した Philips ではなく Motorola が開発したシリアルバスだ。とにかく信号線が減らせる I2C とは思想が異なり、下り(MOSI)・上り (MISO)・デバイス選択 (Slave Select や Chip Select と呼ぶ)で別々の信号線を使うため、I2C の最速 3.4Mbps を遥かに超えるスピード (数Mbps以上、場合によっては数十Mbps) を出すことができる。

参考: SPIについて

だから、センサーのような散発的で量の少ない通信を I2C がよく担うのに対し、SPI はスループットが大きくて連続したストリームを流す用途に向いている。今回題材にする SPI 液晶以外で例えると、Arduino の Ethernet Shield は SPI 接続だ。I2C でやろうものならスループットは ISDN 程度が関の山だが、SPI だとそのレベルは余裕でクリアできるからだ。

ルーターで SPI を使うには

今回は、前回に引き続き 多摩電子工業 (Axing) W06 を題材に使うことにする。

このルーターでは、周辺デバイスの接続や内部ペリフェラルの有効無効を Device Tree で管理できる。Device Tree は、 ARM アーキテクチャのマシン固有コードが増大することに業を煮やした Linus がキレたことに端を発して開発されたものらしい。

Device Tree を簡単に説明すると、「ボードや SoC 毎に別個の初期化コードを書くのではなく、そのボードや SoC のハードウェア構成を表現できるツリーの情報をもとに、ドライバ側で必要な初期化を行う」コンセプトだ。今では ARM はもちろんのこと、MediaTek MT7628AN など ramips な SoC をはじめとして様々なプラットフォームが対応している。

この前 USB を生やした ar71xx は対応していないのだが、Device Tree で初期化できるようにするために新しいアーキテクチャ ath79 への移植が進んでいる。

前置きが長くなってしまったが、ルーターで SPI を使うには、この Device Tree の情報を変更して新たな SPI 機器を Linux kernel に認識させることになる。

ファーム準備

以下の手順で有効化する。

  • Kernel Config の変更
  • Device Tree の変更
  • SPI の信号が出ている回路を探す
  • 接続する

Kernel Config の変更

kernel_menuconfig にて以下追加する。結構多い。

  • Device Drivers
    • Character Devices
      • Virtual Terminal
    • Graphics Support
      • Frame buffer devices
        • Support for frame buffer devices
        • Framebuffer foreign endiannes support (なくてもいいかも)
        • Enable Tile Blitting Support (なくてもいいかも)
      • Console display driver support
        • Framebuffer Console support
        • Map the console to the primary display device
        • Framebuffer Console Rotation (なくてもいいかも)
      • Bootup logo

SPI 液晶のコントローラーチップに合わせてドライバを選択する。筆者の手持ちの液晶は ST7735 だったため以下選択している。

  • Device Drivers -> Staging drivers -> Support for small TFT LCD display modules -> FB driver for the ST7735R LCD Controller

Device Tree の変更

W06 の Device Tree は、 openwrt/target/linux/ramips/dts/W06.dts に入っている。この中で mt7628an.dtsi という SoC 共通の dtsi (include用の dts は拡張子として dtsi がつく) を include している。

SPI は既に SPI Flash で使用されているため、Flash のノードの隣に追記することになる。解決ポイントとしては、

  • MT7688AN は SPI 物理層が1つだけなのに対して CS (Chip Select) を2つ持つ
  • FBTFT (小さい液晶向けの Framebuffer ドライバ)のDevice Treeに関する情報の不足
  • 液晶の制御に使う DC ピンと Reset ピンを GPIO で用意する

といったところに対処する必要がある。ひとまず、Device Tree へ加える変更は以下の2コミットを参照されたい。

github.com

github.com

LinkIt Smart 7688 の Device Tree を参照すると、SPI の pinctrl として spi_pinsspi_cs1_pins が関連付けてある。これを持ってくる。

続く ST7735R のノードは、FBTFT のコードを読んで必要な値をピックアップ、記述した。加えてこの中にプロパティとして reg = <1>; を指定することで、m25p80 と同じ SPI バスの CS1 に接続されていることが表現できる。

FBTFT は Raspberry Pi しか想定しないのか、単にドキュメント不足なのか、cmdline で雑にパラメータを渡す使用方法しか出ないのが難しいところだ。

DC と Reset の GPIO は、LED に伸びる GPIO 2つをそのまま使用した。電源 LED 以外ならなんでもいいが、同じ gpiochip 扱いとなる Wi-Fi と WAN の LED を今回は使用した。よって、 gpio-leds に記述してある方のノードは削除した。

SPI の信号が出ている回路を探す

前述したように、SPI はすでに SPI Flash のための配線がなされている。加えて、SPI のバスは SoC に1つしかなく、CS で通信するデバイスを切り替えることになる。つまり、Flash の配線に液晶もつないでしまえばよい。

f:id:puhitaku:20181224143812p:plain
液晶配線前のFlash周辺

f:id:puhitaku:20181224011718j:plain
液晶配線後のFlash周辺

GPIO も全部配線したのが以下。

f:id:puhitaku:20181224144626p:plain

f:id:puhitaku:20181224145117p:plain

全体図。

f:id:puhitaku:20181224014152j:plain

いざブート!!!と思いきや…

ファームもビルドできたので実機でブートしたところ、スタックトレースが大量に出て作業どころではなくなってしまった(出力の記録は失念)。発生箇所は target/linux/ramips/patches-4.14/0043-spi-add-mt7621-support.patchWARN である。

https://github.com/puhitaku/openwrt/blob/4fd788282274e132b974e074a35cf8729c72819e/target/linux/ramips/patches-4.14/0043-spi-add-mt7621-support.patch#L338

どうやら、転送前の length の合算時に 16 bytes を超えるとダメなようだ。バッファ量の制限だろうが、分割していい感じに送ってほしいものだ。

問題はこれだけなら良いが、MT7688AN の SPI ブロックは驚くべきことに ハードバグ を抱えているらしく、SPI MODE 0 以外正しく動作しないとのこと。一体どんなテストベンチを組めばこれが判明せず出荷されるのか…。ともかく、これらの問題に対して Mainline の staging driver ではパッチが当たっているようで、OpenWrt にバックポートする PR も提出されている。筆者はこの PR を見付けるより前に Onion が当てているパッチ を見つけたのでこちらを使用しているが、今後は OpenWrt 本家の PR のマージを待つか、cherry-pick して使うのが良いだろう。筆者のブランチはこちら

波形を見てみる

パッチを当てたあとの波形は以下のとおり。上が CS1、下が MOSI だ。

f:id:puhitaku:20181224155147p:plain

CS1 が High の間は、SPI Flash との通信を行っている。Low になると液晶との通信が始まる。んん〜〜いい感じ。よくできてるなあ。

リベンジ!!

f:id:puhitaku:20181224031703j:plain

やった〜〜〜〜!

カスタマイズ

画面を回転する

Device Tree に指定を入れる ことで画面が回転できる。

フォントを変える

今回使用した液晶は 128x160 と極めて小さいため、フォントも小さいものを選択しなければまともに使えない。標準で入っているフォント VGA 8x8 font はサイズが大きくデザインも暑苦しいため、他のフォントを使ったほうが良い。

f:id:puhitaku:20181224135447j:plain
VGA 8x8 font の見た目

Mac console 6x11 font は非常に小さく、かつグリフのデザインも優れているためおすすめだ。Library routines -> Select compiled-in fonts -> Mac console 6x11 font (not supported by all drivers) で選択できる。

f:id:puhitaku:20181224131802j:plain
Mac console 6x11 font の見た目

これでも狭いことには変わりないため、可読性はギリ読める程度に下がるが、より小さいフォントの選択肢もある。Library routines -> Select compiled-in fonts -> Mini 4x6 font で選択できる。

f:id:puhitaku:20181224132317j:plain
Mini 4x6 font の見た目

コンソールでシェルを使えるようにする

シェルが紐付いている (gettyが走っている) ことを示す "Please press Enter to activate this console." という文言は標準では表示されない。Framebuffer fb0tty1 に紐付けられているため、/etc/inittabtty1 で getty するように追記すればよい。

::sysinit:/etc/init.d/rcS S boot
::shutdown:/etc/init.d/rcS K shutdown
::askconsole:/usr/libexec/login.sh
tty1::askfirst:/bin/sh --login

W06 は本体に USB ポートがついているので、USB キーボードを接続すると普通にシェルが操作できるようになる。menuconfig にて以下追加する。

  • Kernel modules -> USB Support -> kmod-usb-hid

試しにちょっと使ってみよう。

f:id:puhitaku:20181224162312j:plain
vi。

f:id:puhitaku:20181224162332j:plain
Hello World。

やったぜ!!!!

次回

次は続けて I2C をつなぐ。乞うご期待。SPI 液晶の応用もやりたいけどそれは後日。(投稿したの24日だけど!!!!)