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「前前前世」のノイズを検証した

♪ RADの前前前世から僕はノイズを探し始めたよ―

TL; DR

結論: RADWIMPSからつい先日リリースされたアルバム「人間開花」に収録されている「前前前世 [original ver.]」は得体の知れないノイズがマスタリング段階で混入している。 以下検証過程を書くが、エモい文章や検証不可能な事項を書いてもよくないので、今起こったことをありのままに話すだけにしておく。

一言だけお気持ち表明しておくと、「とても かなしい」。

事象

  • 前前前世を聴いている時に同じタイミングで同じノイズが聞こえる
  • 以前リリースされた映画「君の名は。」のサウンドトラックでは聞こえたことのない音
  • わかりやすい部分
    • 冒頭「心が身体を追い越してきたんだよ」の『を』の部分のプチッという音
    • サビ「そのぶきっちょな笑い方をめがけて」の『ぶき』の部分のザザッという音
  • その他にも強くノイズが疑われる箇所が合計13箇所ほど現れる
  • 間隔や程度はランダムなように聞こえ、拍に沿っているかなど周期性は不明
  • サビやCメロなど盛り上がる部分では連続的にチリチリ鳴っているようにも聞こえる気がする(追記: 結果・考察に本事象について追加したため参照されたい)

当初の予想

  • 何度再生しても同じタイミングでノイズが聞こえることから、偶発的なものではない
  • 「以前リリースされた映画「君の名は。」のサウンドトラックでは聞こえたことのない音」であることから、意図的でない可能性が高い(RADWIMPS側で心変わりがあり意図的にノイズを追加した可能性はゼロではないので、「可能性が高い」としか言えない)
  • 「君の名は。」のサウンドトラックとはCDや曲の内容が別であるため、ミックスダウン・マスタリングが再びなされ音が変化しノイズが乗った可能性
  • CDの物理的損傷・製造ミスによるデータ変化とは考えにくい; エラー訂正が効かないほどの損傷の場合は、ひどい場合突如無音になる・再生機器によって補完結果が変わる・勝手に次のトラックへ飛ぶなどの現象があり得るが、実際は同じノイズがどの環境でも同じように聞こえているし該当すると思わしき事象は起きていない

検証の目的

音源がどの段階でノイズを持ったのか決定する・どのような過程で生じたノイズなのか推測する・ノイズの性質を観察する

検証手段

ノイズが発生しうる段階を、耳からCDまで順に変えていき可能性を排除していく。 再生機器で違いが出ずCDの個体差も無かった場合は音源を変える。

検証日にリリースされている音源のうち、

  • CD
  • オンライン購入 (iTunes Store, e-onkyo musicなど)

があるが、まずCDとiTunes Storeの音源を比較し次にe-onkyo musicの音源と比較する。 e-onkyo musicである理由は、

  1. 単に多様なソースで比較するべきである

  2. CDのデータ量を超える48kHz 24bitの音源を配布しており、マスターに近い段階でCDに使われる音源とは枝分かれしているか、あるいはダウンサンプリングの過程でノイズが発生した可能性も排除できないから

の2つがある。

ちゃんと購入したことを証明するため購入画面のスクリーンショットを以下に示す。

f:id:puhitaku:20161130164838p:plain

f:id:puhitaku:20161130164957p:plain

検証環境 その1

  • 自作PC
  • OS: Windows 10 (Anniversary Update未導入)
  • プレーヤ: foobar2000
  • 出力API: WASAPI
  • DAC: ONKYO SE-300PCIE
  • CDドライブ: 外付けBD(スリムドライブ、型番忘れた)
  • イヤフォン: Etymotic Research ER-4S

検証1: 再生環境

まず再生環境の違いによるノイズ発生の可能性を、耳に近い部分から排除する。

  • イヤホンをaudio-technica ATH-A5に変える → 変化なし
  • DACをSony PHA-1に変える → 変化なし
  • DACをチップセット内蔵のものに変える → 変化なし
  • WASAPI出力をDirectSound出力にする → 変化なし
  • リップ時のエンコーダをFLACからWAV, AAC, Opus等に変える → 変化なし
  • CDをリップせずfoobar2kで直接再生する → 変化なし
  • CDドライブをPIONEER BDR-207DBKに変える → 変化なし
  • MacBook Pro Early 2015 でリップ and 直接再生する → 変化なし
  • PCではないCDプレーヤー(ONKYO FR-V3)で聴く → 変化なし

PCではないCDプレーヤーで再生しても変わらなかったため、再生環境による違いはないといえる。

検証環境 その2

  • MacBook Pro Early 2015
  • OS: Mac OS X El Capitan 10.11.6
  • プレーヤ・リッピングソフト: iTunes 12.5.3.17
  • DAC: Sony PHA-1
  • CDドライブ: 外付けBD(スリムドライブ、上記と同じ)

検証2: ディスクの問題

再生環境の違いによるノイズ発生の可能性は排除できたので、次はCDの製造ミスなど個体差の検証にかかる。もし2枚のディスクでdiffが生じていたら、どちらか・あるいは両方が製造ミスを抱えている可能性が浮上する。

ちなみにもう1枚の円盤は、スパークルのMVでテンションが上がり人間開花限定盤を即ポチした id:Allajah のものをお借りした。ありがとう!

f:id:puhitaku:20161128192024j:plain

まずCDを両方WAVでリッピングし、それぞれ disc1 と disc2 のディレクトリに入れMD5チェックサムを計算した。

ls | sed "s/\'/\\\'/g" | xargs -I {} md5sum {}

以下はその計算結果のスクショである。

f:id:puhitaku:20161129005442p:plain

差はない。diffを取っても画面出力はなかった。よって、CDの製造ミスや個体差による変化であった可能性はないといえる。

検証3: 音源そのものの問題

筆者はこの後iTunes Storeとe-onkyo musicで音源を購入しそれぞれ聴き比べたが、ノイズはそのまま同じ箇所・同じ音で聞こえた。 ここまで来ると、疑うべきは音源そのものがノイズを持ってリリースされた可能性である。

ノイズ1: 冒頭

ここでは、参考として「君の名は。」のサウンドトラックに収録された「前前前世 (movie ver.)」の音源と比較しながら特異なノイズを見つけ出し、特徴をまとめることとする。

波形編集ソフトウェアであるAudacityを使用し、「人間開花」の波形(上)と「君の名は。サウンドトラック」の波形(下)を並べたのが以下の画像である。

f:id:puhitaku:20161130002439p:plain

上の画像では最初に顕著に聞こえるノイズ(冒頭「心が身体を追い越してきたんだよ」の『を』部分のプチッという音)の周辺を表示している。見た限りでは、バスドラムが鳴った際の波形の歪み方が「人間開花」のもののほうが激しく見える。

これだけだと「きつすぎるコンプレッサーで音圧を上げすぎた結果歪みが大きくなりすぎてバスドラム由来のノイズが発生した」と結論付けられそうだが、実は耳でノイズと感じる「プチッ」という音はバスドラムの音より0.1秒強うしろへずれている。

波形表示をスペクトラム表示(リニアスケール・Hanning窓・バッファサイズ 128 [sample])に変えたのが以下の画像である。上が「人間開花」、下が「君の名は。サウンドトラック」である。

f:id:puhitaku:20161130003143p:plain

画像中央あたりのスペクトルに注目して欲しい。「サウンドトラック」では無かった中〜高音域の広帯域に渡るスペクトルが「人間開花」では現れているのが確認できる。このような差は前後では見当たらない。

元の波形も含む、より広い範囲のスクリーンショットを下に示す。

f:id:puhitaku:20161130003414p:plain

先ほどの特異なスペクトルが画像中央上に見える。このスペクトルと画像下の元の波形を見比べると、バスドラムが鳴った瞬間ではなくかなりずれた位置にあることがわかる。

ノイズ2: サビ

同様にして、サビ部分のノイズ(「そのぶきっちょな笑い方をめがけて」の『ぶき』部分のザザッという音)周辺の「人間開花」のスペクトル・「サウンドトラック」のスペクトル・「人間開花」の元の波形を並べ、該当箇所を表示したものが以下の画像である。

f:id:puhitaku:20161130004055p:plain

中央上に冒頭のノイズと同様の「とげ」が見える。またバスドラムともずれていることがわかる。

結果・考察

まずあらゆる可能性の排除の結果、再生環境や音源ソースの違いによるノイズ発生の可能性はなく、ミックスダウン・マスタリング段階で混入したノイズであることがわかった。

また波形と音声スペクトラムを解析した結果、「人間開花」の音源には「君の名は。サウンドトラック」には含まれていない特異な高周波音声が含まれており、スペクトラムにより明確に観察できることがわかった。

ここからは個人的な考察になるが、この「とげ」状の高周波ノイズはバスドラム等音圧の大きいものから生じているのではなく、ボーカルの波形など特定のトラックがミックスダウンの前段階でノイズを含み、そのまま混ざってしまったものと考える。理由は以下の通り: バスドラム音の歪みによるノイズは、100Hz以下あたりの低周波を基本音とする倍音が幅広く含まれる。しかし上記で注目している「とげ」の発生はバスドラム(拍)に沿っておらずタイミングも大きくずれている上に、大きなエネルギーを持つはずの低周波(※)へスペクトルが延びていないことからも関連がないのがわかる。

※ フーリエ級数展開すればわかるが、例えば理想的な矩形波の場合、基本音に対して倍音成分が持つエネルギーは高周波になるほど単調減少する。しかしながら「とげ」のスペクトラムは逆に低周波に行くほどエネルギーが減少しているので矛盾する。

また事象の節に書いた「サビやCメロでノイズが連続的に鳴っているように聞こえる」だが、これまで検証してきたような明らかなノイズは同じように発生しているものの、連続的なノイズに関してはスペクトラムを見比べてもほとんど違いがない、あるいはどの程度からノイズと言えばいいか微妙なレベルの差しか無かったため、気のせいあるいはプラシーボであることがわかった。

感想

…。

辛い。辛い。何度も「君の名は。」を映画館で見て、サントラをヘビロテしながら今か今かと「人間開花」のリリースを待っていた。その矢先にこんなノイズ混じりの音源を聞かされ悲しいことこの上ない。私は6年ほど前に寮で同級生がRADWIMPSを聴いていたから自分もちょっと聴いてみたという程度のにわかだが、アルバム1本1本頑張ってリリースしているであろうRADWIMPSの皆さんの事を考えたらいたたまれない。

とりあえず今はスパークルMVの三葉のかわいさと瀧くんのまぶしさにやられたままスヤァしたいと思う。